ル・コルビュジェの休暇小屋~近代建築の巨人が最後に住んだ最小限住宅

コルビュジェは住宅においてもサヴォワ邸をはじめとして多くの傑作を残しましたが自分の住む住宅にはあまり関心がなかったそうです。しかし、唯一の例外が、この近代建築の巨匠が最後に住んだという「カップマルタンの休暇小屋(1952年)」です。

何も知らずにこの丸太小屋を見たなら、とてもモダン建築の巨匠が作って最後に住んだ住宅とはわからないでしょう。権威に弱い世間の評価に対して、本物かどうかを見抜く目を持った人にしかわからない究極の住宅を作る・・・そんな天才の天の邪鬼な一面を見る気がします。

この海辺の小屋が最後の住宅となった理由は、コルビュジェがここに滞在中に医者に止められていたにもかかわらず海に泳ぎに行って、心臓発作で死亡したためです。

生涯をかけて追求した最小限住宅

この小屋はコルビュジェ夫人のために作られたそうですが、コルビュジェにとって最小限の住宅における快適性の追求は無名時代に母親のために作った「小さな家」の頃から生涯にわたって気にかけていたテーマのようです。

普通の人は、お金持ちになったら両親に豪邸をプレゼントしたいと考えるものですが、コルビュジェにとっての最高のプレゼントは、自分にしか作れない究極の住宅として最小限住宅を選んだのかもしれません。

この小屋への思い入れはかなりのものだったらしく、パリの事務所で5人のスタッフが関わり半年もの期間をかけて計画されたそうです。

これが本家モデュロール・ハウス~「LC1」を住宅にしたらこうなる

こ の小屋はモデュロール(人体の各部寸法を基準として数理的に分析した尺度で、フランスの「Module(尺度)」と「Section d’or(黄金比)」を組み合わせた造語)を駆使して作られており、天井高は183cmの男性が手を上げた高さ2.26mとされ、室内には2つのベッド、 整理棚、テーブル、洗面台、トイレが絶妙の配置で構成されています。

ベッドや椅子の内部には収納スペースまで確保されており、まさに有名なチェアの「LC1」と同じく「最小限の空間に最大限 の快適性」を追求しています。

完成後、コルビュジェは「この休暇小屋の住み心地は最高だ。自分はたぶんここで一生を終えることになるだろう」という言葉を残し、その通りにこの地で生涯を閉じたのでした。

アイリーン・グレイへの意趣返し?

また、この小屋がアイリーン・グレイの世界的に有名なテーブルの名前にもなっている建物「E1027」と 同じ海岸に建てられたことも、2人の確執を考えると因縁めいたものを感じさせます。グレイが空間の機能的な活用による最小限住宅を提示したこの地に、コル ビュジェは本当に小さな空間に計算しつくされた寸法と家具の配置を行って、グレイに対する自分の答えを示そうとしているかのようです。

コルビュジェは世界最高の建築家としての名声を得たにもかかわらず、グレイが初めて手がけた建築の出来映えに生涯、嫉妬し続けていたのかもしれません。


黄金比 ? 白銀比? それとも MyRatio?

■黄金比

「黄金比」とは、1:1.618(約5:8)の比率で、調和、バランスのとれた縦横割合として有名な比率です。

例えば下記のような身近なところでも数多く使用されています。

・名刺等

・テレビ等の工業製品

・クレジットカード 等

黄金比は古くは古代ギリシャ時代のミロのビーナスやパルテノン神殿等でも使用されています。

また、自然界においても、人体・鳥や魚、巻き貝の渦等を分析すると黄金比になっているものが多数見られることから、人間の目が美しく感じる比率と自然界の調和は無関係ではないのでしょう。

■白銀比

白銀比は「1:√2」のことで、近似値は1:1.4142、約5:7です。

自然界の最も美しい比率が黄金比とするなら、人工物や建造物で安定した美しさになると言われているのが「白銀比」で、日本では「大和比」と呼ばれる程古くから親しまれています。

例えば、日本古来の建築では法隆寺の五重塔を上から見た平面図の短辺と長辺も白銀比として有名です。

さて、あなたはどちらの比率に癒されますか?  

但し、これらの比率は知っていれば良いというようなもので、必ずしも縛られるべきものでもありません。

クリエイターは自分の感性で勝負、MyRatioを主張してみてはいかがでしょうか?


森空海と都市空間

自然と都市の造形を建築物を通じてご紹介します。

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